「お父さんは、お釈迦さまが成道された日に生まれたんだよ」

戦争中にこしらえたという、庭の中の菜園で種蒔きをしていた時の会話です。

 

成道とは、お釈迦さまが悟りを開いて仏になられたことをいいます。

お釈迦さまはインドのブッダガヤという所で、菩提樹の木の下で禅定に入りついに悟りを開かれました。12月8日のことで、この日は成道会という法会が修されます。

この日は、仏教徒にとってはとても大切な日なのです。でもお釈迦様の誕生日(4月8日)ほどには知られていなくて、私たちの生活に溶け込んでいません。

「ふうん」

と返事したものの,小学生だった私は特に興味を引くことはありませんでした。

でも、お釈迦さまが悟りを開かれたからこそ、仏教としてその教えが今に伝わっているのです。

人は縁によってこの世に生まれ,縁によって生かされている、と言うのがその根幹となる教えだと言います。

大正の末、お釈迦さまの成道の日に生まれた父は太平洋戦争に徴収されましたが無事に帰ってきました。のち小学校の教員になり、母と結婚し三人の娘を授かって、平凡ながらに満足した生活を送っていました。

ところが父が四十代の働き盛りになると、とても忙しい日々が続くようになりました。

そして、仕事に目を奪われているうちに、余命を医者から告げられる事態になっていました。

「後のことは母さんがしてくれるだろう。ただ、成人した娘たちの姿を見ることができないのが残念だ」

言い残した父は、成道会の日に旅立ちました。

 

娘たちは今やおばあさんになり、寄り集まって父の五十回忌を勤めました。

父から見てひ孫になる子供たちもお詣りし掌を合わせました。もう高校生になった子もいます。

「曾おじいちゃんは成道会に生まれ成道会に旅立った」。

子から孫へひ孫へと、父との縁の繋がりが広がっているのです。

成道会の日が来ると胸に抱く父のご縁。

大切に紡いでいきたいと願っています。