8月の法話 指に学ぶ親心/倉橋観隆


 今、本誌を手に取って読んで下さっている貴方、その手のひらを見て下さい。右でも左でもどちらでもかまいません。その手の指にはそれぞれ名前が付いています。親指、人差し指、中指、薬指、小指。親指を除いた四本は見ている貴方の方を向いていると思いますが、親指だけは他の四本の方を向いていませんか。

 そもそも親指と名付けられた理由は諸説有ります。

その一つに常に他の四本の方を向いて見守っている形によるとも言われます。殊に親指から一番離れた小指はその名の通り子供を表します。親から一番離れていても、更にたとえ親を見ていなくても親は常に遠くから子供を見守っている姿を表しているそうです。

 もう一点。たいていの方は五本の指の中で親指が一番短いようです。親でありながら小指より短いのは子は親を越えて大きくなって欲しいという親心を表しているとも言われます。

 さて今度は足の指に目を転じて下さい。形はどうなっていますか。手とは反対に、親指が一番大きくて小指が一番短く小さくはありませんか。これは子供への戒めを表していると言われます。足元を見つめた時、親の存在を決して忘れてはいけない。それを象徴するのが足の親指と小指の形だそうです。

 日蓮大聖人は富木常忍(ときじょうにん)という方に与えられたお手紙にこのように示されています。「我が頭(こうべ)は父母の頭。我が足は父母の足。我が十指は父母の十指。我が口は父母の口なり」身体髪膚すべて親から頂戴したもの。その恩を忘れないことが信仰の基本であると戒めておられるのです。そして、親の恩に気付くことは取りも直さず自らの命の根源に目を向けることであり、生かされている自分の存在の重さ、尊さに目覚めることなのです。

 我が手足は親心、更には人としてのあるべき姿を既に教えてくれています。

 朝夕、祖先に十指を合わせ、自らの有り様を振り返りたいものです。