12月の法話 今、ここで/宮本観靖


 今年も多くの書籍が話題となりましたが、その中で注目され、長く売れていた本の一つは「アドラー心理学」に関する本ではないでしょうか。

 恥ずかしながら私は、アドラー心理学に関しては名前からして「?」という状態でしたが、世界的には心理学と言えばフロイト、ユングと並ぶ三大巨頭の一人として、必ず言及される精神科医だということです。

 アドラーの心理学の特徴としてはフロイト等が提唱する「原因論」ではなく、「目的論」の立場をとる事です。

 目的論とは、今の自分の言動は過去の出来事に原因を求めるのではなく、今この様にしたいという自分の目的があって、それに沿ったものだ、という事です。例えば、引きこもりの人の場合で見ると、「不安」という原因があるから外に出られないのではなく、「外に出たくない」という目的のために不安という感情を作り出している、という事になるそうです。

 つまり、この様にしたいという目的は、自分自身が作り出すものである以上、今の自分が良い状態であれ悪い状態であれ、それを選んだのは自分自身であり、誰のせいでもないという事です。

 そして、逆に言えば今の状態に不満があったとしても、自分でそれを選んだならば、自分自身で再び良い方向に選び直すことも可能だという事です。

 大事な事は「今、ここ」をどの様に決断して生きるかであり、そうする事で原因と考えていた過去も、結果としての未来も変わっていくことでしょう。

 これは、仏様の教えとも通じているものです。過去にどの様な原因、因縁があろうとも、今、この場で生きる事に真剣になることが大切な事です。

 過去も未来も関係なく、今自分が成すべき事、そして、自分だけでなく他の人の為に、何が出来るかを考え行動する。そこに幸せと喜びを感じられるようにしていくことが私達に必要な事ではないでしょうか。