5月の法話 焼身供養/服部憲厚

著莪の花 法華経に、薬王菩薩という菩薩様が登場します。過去の世で自身の身を焼いて仏様に供養されました。焼身供養のお話です。

 生き物にとって、最も捨てがたいこの身を仏様に供養されました。その光は、広く世界を照らし、多くの人に悟りを求める心を得させたと書かれてあります。 これは、お経の中の菩薩様のお話です。実際にはありえない事だと思っていましたが、先日ある新聞記事を見て驚きました。

 中国チベット自治区で、チベット仏教の若い僧侶等が、相次いでチベットの自由を求めて焼身自殺を図った、というものでした。

 チベットは、歴史的に中国との関係で相容れない問題を抱えており、今も厳しい状況が続いているそうです。焼身という行動でしか世界に訴える方法がなかったのかもしれません。

 私は、焼身自殺を肯定するものではありませんが、尊い命が失われている事実から目を背けるべきではないと思っています。

 自由と平和を求めて炎の中に消えた彼らの祈りを、単に自殺と片付けて良いのでしょうか。チベットは、仏様の教えを重んじる信仰の民族です。その僧侶が、恨みや絶望だけで行動したとは思えません。問題が解決され、本当の平和が訪れることを、仏様に身命を捧げて祈ったのでしょう。私は、あの薬王菩薩の尊い焼身供養を、現代に見たように思います。

 誰しも、この身を喜んで捨てる人などいません。しかし、そうせざるを得なかった人々がいたことを、考えなければなりません。

 これは、中国とチベットが互いに、平和的な対話を始めなければ解決されないでしょう。

 私達に出来る事は何か、「ただ我信ずるのみにあらず、他の誤りをいましめんのみ」という日蓮聖人の御言葉が思い出されます。

 皆同じように刻々と燃えてゆく命の火。ならば、人の幸せの為に活かせる人になりたいものです。

 二度と、このような悲劇を起こさない為にも…。