5月の法話 ほんとうのさいわい/鈴木春曉
今月十五日は、妙見様の大祭だ。妙見様は北極星を神格化した神様である。
そう思い、夜空に北極星を探した。真北の夜空に輝く星であるからすぐに見つかった。それと同時に夜空一杯に輝く美しい星たちも目に映る。
こうした夜空を眺める時、私は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を夜空に重ねてみるのだ。
『銀河鉄道の夜』は、銀河を走る鉄道に乗り幻想的な宇宙を旅する少年二人を描いた物語である。主人公ジョバンニと友人カムパネルラは、夏の夜空に輝く白鳥座(北十字)からサウザンクロス(南十字)を巡り「ほんとうのさいわい」とは一体何か。を探し求める物語である。
『銀河鉄道の夜』が読者に伝えるメッセージは、「本当の幸せとは何か?」という問題だと思う。宮沢賢治はこういう言葉を残している。「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」と。
この言葉のモデルは日蓮聖人の『立正安国論』の一文だといわれている。「汝須らく(なんじすべからく)一身の安堵(あんど)を思わば、先ず四表(しひょう)の静謐(せいひつ)を祷るべき者か」。つまり、自分の幸せを求めるのであれば先ず、自分が住んでいるこの世界全体の平和を祈らなくてはならない。という意味だ。
他の為に自己の犠牲をも厭わないということではない。世界中の人の幸福を願う過程に自ずと自身の幸福も具わる。それこそが本当の幸せではないだろうか。
日蓮聖人、宮沢賢治の言葉は、多くの課題を私たちに投げかけている。
環境問題、宗教や民族闘争、世界に広がるテロリズム、そして国内にも様々な問題が山積している。すべてが他人事で、自分一人だけの幸せを求めるだけならば、世界全体の幸福もあり得ないし、一人一人の幸福も得る事はできないのではないだろうか。私たちは、自分をとりまく世界や未来の人々の幸福のために、いったいどれほどの関心を示し、どれほど貢献する事ができるのだろうか。