11月の法話 失ったもの/末田真啓

 新聞記事によると、振り込め詐欺による被害が上半期だけでもおよそ一六七億円になり、過去最悪のペースになっています。警察の厳しい取締りにも拘らず、だましの手口も巧妙になり被害は一向に減らないというのです。簡単なトリックのようですが、人間心理の弱点を熟知している悪者は肉親への心配や不安を武器にして使ってきます。冷静な判断ができなくなって、気が付いた時にはすでに大金は手元にはありません。

 だまし屋は人間だけではありません。動物も人を騙すと言われています。その代表的なのがキツネとタヌキです。いつもの道を帰っているつもりが、まわり道をさせられたとか、大金を掴んだと思って気が付いてみると枯葉だったという。こちらは詐欺というより、むしろ昔話か笑い話として語り継がれています。

 ところが、最近キツネにだまされたという話を聞かなくなりました。一説によりますと、「日本では昭和四十年を境に人がキツネにだまされたという新しい話が発生しなくなる」というのです。この時、日本は高度成長期を迎えて経済の発展と開発が優先され、一方では「ウサギ小屋」に住む「エコノミックアニマル」と揶揄され物質主義の弊害から人間性の喪失と言われた時代でした。祖先から受け継いだ精神を失った日本人が人に騙され、キツネに騙されないというのはなんと皮肉なことでしょうか。

 日蓮大聖人は『兄弟鈔』の中で「この世は第六天の魔王の所領であり、一切衆生は過去世から魔王の眷属である」という。さらに魔王は私たちに「貪・瞋・痴という三毒の酒を飲ませ仏性の本心を狂わせる」とあります。大聖人は「たとえどのような困難があってもそれは夢だと思って法華経を信じなさい」と教示されています。魔王の威力から逃れ、仏性の本心を得るためには法華経を信仰する以外に他なりません。この世に法華信仰の花が咲けば、きっと振り込め詐欺も消滅し、キツネもタヌキも化かさない世になるでしょう。