3月の法話 蕗の薹(ふきのとう)/新實信導

 今年に入ってからというもの二月にかけて、雪の降る日が多い。やっと溶けたかと思うと、翌日には一面真っ白の風景に変わることも。また雪か…。日射しを見る限り春の訪れはもうそこまで来ているのだが。

 雪の下で顔を出すのが春の使者、蕗の薹。独特の香りとほろ苦さが春の息吹を感じさせてくれる。どことなくけなげな蕗の薹を見つけると元気が沸いてくる。

 子供の頃、蕗の薹の天ぷらが大の苦手であった。天ぷらを口に入れると、あの苦みが口の中いっぱいに充満する。
「何でこんなに苦いものを食べるんだ」と思った。母親から「体にいいんだよ」と、言われて渋々食べたが美味しくなくてイヤだった。ところが、大人になるにつれ、この蕗の薹を実に美味しいと感じるようになった。

あのほろ苦い花蕾を忘れなくなったのがなんとも不思議である。

蕗の薹は、ビタミンK、葉酸、ビタミンE、銅、食物繊維、カリウム、マグネシウム、鉄分、パントテン酸などを豊富に含んでいることに驚く。しかも、建胃剤、鎮咳剤など薬用効果もあるという。まさに冬の間にたまった脂肪を流し、味覚を刺激して気分を引き締め、新年度の活動をスタートさせてくれるのである。

 冬は私たちの心にどこか閉塞感をただよわせる雰囲気がある。
しかし、周りを見渡すと木の芽や草花の芽は膨らみかけている。植物たちは今年は雪が多いとか寒さが厳しいとか文句を言わず、冬の間に花や葉をひろげるための準備を着々と進めている。その姿にただ感嘆するのみである。

 私たちは、木や草花の生命力から元気や勇気を頂いている。さらにはその生命までも食料として頂戴している。

日蓮大聖人は「食物には、生命を持ち、容色を増し、力を蓄えるという三つの働きがある。他人に物を施せば自分自身の助けとなる」と説示されている。外はいかに寒くても心は常に温かく持ち続け、社会に貢献すること、自分にできることを行うことが大事なのである。