7月の法話 よきひとにむつぶもの/辻田教融

 先日、京都大学大学院の鹿子康弘特定助教授らが、おもしろい実験を行ったと報道がありました。

 その実験とは、ある図形が別の図形に攻撃している様子をアニメーションで描き、それを生後十ヶ月の赤ちゃんに見せました。見せた後そのアニメーションに出た図形を選ばせた結果、十六人の赤ちゃんが、いじめられた側の図形を選んだとのことです。この結果を受けて鹿子康弘特定助教授は「人は本来は善人である可能性を示唆している」とコメントしています。いわゆる古代中国の哲学者、孟子が唱えた性善説です。

 またこの実験には続きがあり、実は大人にも同じ実験をしたそうです。そこでさらにおもしろい結果がでました。なんと大人では、いじめられた側に同情する割合が少なくなる傾向が見られたのです。

 成長するにつれて人はいろいろな知識や経験を身に着けていきます。その知識や経験を生かしてよりよく生活できますが、かえって善人の心を曇らせることがあるのかもしれません。

 日蓮聖人は随自意御書で「仏の御心はよき心なるゆへに、たといしらざる人もこの経をよみたてまつれば利益はかりなし。〔中略〕よき人にむつぶもの、なにとなけれども心もふるまひも言もなをしくなるなり。法華経もかくのごとし。なにとなけれども、この経を信じぬる人をば仏のよき物とをぼすなり」と記されています。「朱に交われば赤くなる」ということわざがあるように、仏様の良き心でお説きになられた法華経お題目を信じるだけで心の曇りは晴れて、元々の良き心が表れるのです。

 そして、良き心になったら是非周りの人々にもその良き心を伝えていきましょう。「よきひとにむつぶもの」は心も振る舞いも言葉使いも良くなります。皆さんがきっかけになり周りの人の心の曇りを晴らせば、その輪が広がり世界はもっとすばらしくなるのです。

 まず一歩を踏み出しましょう。皆さんには、既に善人の心があるのですから。