3月の法話 小さな一歩/植田 観肇
三月になるとだんだん鼻がむずむずし、目がかゆくなってくる。草木が芽生え春の到来に心躍る反面、花粉で頭がぼーっとして何も手につかないのを思い出して憂鬱な気分になる。ドラッグストアやスーパーでも花粉対策グッズのスペースは年々広くなっているようで花粉対策は今や日本で一大市場を形成している。
対策の基本はマスクだがマスクだけでも何百種類もある。最近では花粉対策だけでなく様々な付加価値がついており、つけると小顔に見えるマスクなどもはや何のための道具なのか分からなくなっているほどだ。
春の花粉症の原因は主にスギといわれ、日本中どこでも山を見るとスギだらけだが、実はこれらはほとんど戦後に植えられたものだという。
戦後の復興の資材のためにと国の政策で全国的に植えたこれらの木、元々は花粉が出るまでに生長した木は建材などに使われるはずだった。だが、資本主義と急速なグローバル化の発達と共に、安い外国の木が日本に輸入され、結果売れ残った木は放置され、それが今も大量の花粉をまき散らしながら現在にいたっている。
この状況は本来植樹に適していない人里離れた山奥にも広がっており、手入れされない人工林の森は真っ暗で他の草木も生えず、元来あった多様な生態系も崩れてきている。これは森の生き物にとっても花粉に苦しむ私たちにとっても憂うべき事態だ。一番良いのはスギを徐々に本来あるべき木に植え替える事だが、巨大なグローバリズムの前で国の対策も思うように成果は出ていないようだ。
少し大げさだが、もし今の世に日蓮聖人がいらしたなら、皆が幸せになれる道を国や世界に提案し実行されたかもしれない。とはいえ、私にはそこまでの力はないので、まずは身近な境内の森を守るために目下勉強中だ。
大切なことは、皆が幸せになるにはどうすれば良いか、小さくても一歩を踏み出すことではないか。