5月の法話 藤の花/詠裡庵
藤の花が例年より早く咲き始めたと、ニュースでも話題になっていました。
公園や小学校によくあったのが藤棚です。その下で砂遊びをしたのが楽しい想いでになっています。藤が周りを囲むように優しく包んでくれていました。
藤棚ではなく、まるで盆栽のような、高さを一メートルくらいに抑えた藤もありますね。よく見ると根元は太く支え木もなく、幹をしならせた姿は力強さを感じさせるように立っています。強い日当たりを好んでどこまでも蔓を伸ばそうとするはずの藤ですが、別の植物かのように感じられるのは,成長の過程における縁によるものなのでしょうか。
藤は花を咲かせるとき、花だけが垂れ下がるように咲き、正味の花だけをじっくり見ることが出来る華やかな花です。それだけに人の目にとまることも多かったためか古くは『古事記』や『風土記』にも出てくるそうです。『万葉集』にも庭の藤を愛でる言葉が出ているといいます。昔からそれだけ人々に親しまれてきた、身近な花だったということなのでしょう。
春の山では桜が終わる頃今度は藤の花が私たちの目を楽しませてくれます。
能勢の山にも藤が生育しているのが見られます。これは藤棚などの低いものではなく、樫や杉などの高木に巻き付いて高く伸びています。強い日光を求めて精一杯に首を伸ばすようにお日さまの方に伸びていき、樫や杉の葉を押しのけるように天高く咲き誇り、私たちの目にはとても美しく見えます。ところがこの藤に巻き付かれた木は幹が大きくなれず、やがて枯れてしまうので山の手入れのため、藤は根元で切られるそうです。美しいだけではなくとてもたくましいのですね。
私が生まれたとき、孫娘の成長を願って祖父が「藤娘」の人形を買ってきたそうです。どんな願いが込められていたのでしょうか。藤の花のように美しく育って欲しい? 藤の蔓のように逞しく生きて欲しい? それとも……?