10月の法話 交代/末田真啓

 祖父の代から食堂を営むYさんの店は、近所に役所や警察署などもあるため、昼時ともなれば出前の電話が鳴り止まないほど商売は順調でした。ところが、支店を出すまでになった店の経営も、ファミリーレストランや弁当業者が街に進出してくるにつれ、今までの様に商売が出来なくなってきていました。

 そんな時、阪神大震災で被災し、本店での営業が出来なくなりました。本店を閉鎖し、支店で家族だけでの営業となったのです。

 今まで支店はYさんの長男が任されていましたが、本店と支店が一緒になることで大きな問題が発生しました。本店のラーメンは、鶏ガラがメインの透明なスープで、いわゆる中華そばの伝統を守った、初代からのサッパリした定番の味でした。一方、支店のラーメンは、Yさんの長男の試行錯誤の末の自信作で、豚骨を使った白濁したコクのあるスープで若い人の好む味でした。本店の味か、支店の味で行くのか、どちらかを選択しなければなりません。思案した挙句、Yさんは長男に店を全面的に任せることにして自分は、調理と会計を担当するという苦渋の決断をしたのです。いわば、経営者の交代とともに店の定番ラーメンも政権交代が行われたのです。

 ところが、瓢箪から駒と言うのでしょうか、今まで仏事には全く無関心だった長男が、Yさんに代わって積極的にお寺の行事に参加するようになりました。

 家長としての自覚といえばそうなのかもしれませんが、子供のころ祖父母が毎朝商売に出かける前に必ず仏壇に手を合わせていた姿が、自然にお寺に足を向けさせるきっかけとなったのでしょう。

 祖父母によって植えられた仏種がここで芽吹いてきたのです。口で語らずとも毎日積み重ねた立ち居振る舞いは子に孫に必ず伝わっていきます。日々精進していく姿が大切なのです。

 一時は政権交代と心配していたYさんですが味は変わっても心は変わらぬ店の様子に安心したようです。