2月の法話 寒苦鳥(かんくちょう)/倉橋観隆


 昔、ヒマラヤに一組の鳥の夫婦が棲んでいました。ヒマラヤといえども昼間はお日様が当たるので、ぽかぽか陽気。他の鳥たちは夜の寒さに備えて一生懸命に枝を集めて巣を作っています。しかし、その夫婦はのんきに遊んでいます。ところが、日が沈んだ途端、昼とは一変し厳しい寒さが鳥たちを襲って来ました。夫婦は昼間、遊びほうけてしまったことを後悔します。妻は「寒くて死んでしまうわ」と泣き叫びます。夫は「夜が明けたら、巣を作ろう」と固く決意し、妻をなだめました。ところが夜が明けて暖かくなると辛かったことをすっかり忘れて又遊びほうけてしまったのです。夫婦は懲りずに同じことを繰り返し、ついに巣を作ることなく一生を終えたのです。この鳥を人は「寒苦鳥」と呼んだそうです。

 この話を聞くと私は学生時代を思い出します。試験勉強をする時、いつも綿密な計画表を作るのが私の癖でした。出来上がった表を眺めながら「これで今回の試験は高得点間違いなし」とにんまりして「それでは明日から実行しよう」とその日は寝てしまいました。それで翌日にはまたその表を見直して「この点はまずい」と計画を練り直し「また明日から頑張ろう」と寝てしまいます。遂に試験の前日まで計画作りに専念して肝心の勉強はできずに惨敗の繰り返しでした。

 日蓮聖人は『新池御書』にこの鳥の話を引用され、それに続いてこう結ばれています。「地獄に堕ちた時は今度こそ仏に帰依しようと決意するが、いざ人間に生まれてみると無益な事に時と財宝を費やし、仏道修行を物憂く思う。寸善尺魔と申すは是なり」と戒められています。「寸善尺魔」すなわちほんの一寸ほどの善根を積むのにも多くの魔が立ちはだかるものだと。その魔の元凶こそ己の内に棲む怠け心なのです。

 志を立てた時「よし、これからは」「よし、明日からは」ではなく「今この瞬間から」が大切なのです。明日やろうはバカやろう。では、いつ? 今でしょ!