12月の法話 助け合う温かな心を/詠裡庵
「ようやくここまでたどり着いた」
フォーマルドレスを身につけ、ワインレッドのつば広帽子を被った私。遠方の友人の結婚披露宴に招かれた帰りのこと。いつになくおしゃれをしたものの、両手にはたくさんの引き出物がぶら下げられて、もうこれ以上歩くこともできないほどに疲れ果てていた。
まだ宅配便がなかった、三十年も前のことだ。でも忘れもしない。
引き出物は有難いが、こうなっては重いお荷物に過ぎない。阪急池田駅に着いたのが、夜の九時頃だった。家から迎えに来てくれるはずだった。でも、電車を降りたところで、もうこれ以上歩く気力は失せていた。
その時、
「重たそうですね。ひとつ持ちましょうか」
声を掛けてくださった中年の女性。
「いや、大丈夫です」
心にもない返事をしたが、
「私これを持って、あなたの後について行くから」
と言って、奪い取るように重い荷物を持ってくださった。
正直ホッとしたばかりか、とても嬉しかった。自分もこんな風にして困っている人がいれば、絶対助けてあげたい、と思った。
でも近頃は「重たそうですね、ひとつ持ちましょうか」などと、こんな言葉がかけにくくなった。
「まだこれぐらいは大丈夫です、健康のためです」
と言うお年寄りや、
「な~に?」と言うような顔をしていってしまう人。荷物ねらいの泥棒だと思っているのかもしれない。人間不信というか、助けてもらうことは嬉しいが、素直に人を信じられない世の中になってきたのだと思う。
困ったことに対して、人に助けてもらえないで、一人で抱えてしまう。一人で抱えきれなくなったとき、身体的にも、精神的にもどうしようもなくなり、病気になってしまう。
人間は、互いに助け合いかばい合ってこそ、人間らしく生きていくことができるのではないだろうか。
師走という、一年で一番忙しいとき、人の心を見失うことなく、心暖かな元旦を迎えたい。