12月の法話 父母に孝あるべし/第三十二世日法上人遺稿

P1050575 宗祖日蓮聖人は、四徳ということを示されている。これは儒教の教えで、その一は「父母に孝あるべし」とされる。

 さらに続けて、法華経では四恩があるとされ、その一は「父母の恩を報ぜよ」だと説かれている。どちらもまず父母への孝養が第一とされている。父母への孝とは、たとえ親がものの分からない人で、子を悪し様に言っても、子は少しも腹を立てず、また親のいうことが間違いであるというような顔もせず、親のいうことに逆らわず、また親に何もあげるものがなくても、一日に二・三度笑顔を見せなさい、と説かれる。

 道理をわきまえて親の命に従うことを孝といい、親の命に背くことを不孝というとも示されている。聖人の、この様なお気持ちを拝して今日の世相を見ると、すでに仏が予言された末法の時機であるとはいえ、嘆かわしい現実を目の当たりにする。最近家庭内暴力という言葉をよく耳にするが、昔はそのようなことは言葉すら全くなかった。

 戦争直後の物資や食糧の不足した頃、近くにお婆ちゃんが一人で住んでいた。家の前の空き地を耕して、わずかではあったがいろいろな野菜を作っていた。お婆ちゃんには一人息子がおり、たまに帰って来た。息子がまた戻っていくとき、お婆ちゃんは丹精して作った野菜をいつも持たせていた。その時息子は必ず老母に、お母ちゃん無理して働きなや、と声をかけて帰って行った。

 そんな話を、お婆ちゃんはよく私にしてくれた。息子が「無理して働きなや」といってくれる。そう言って話すお婆ちゃんの嬉しそうな顔が、今も目のあたりに見えるようである。

 子を持つ親は誰も皆、このお婆ちゃんの心情と同じであろう。わずかのものでも、子供のためにと、自らを忘れて一心になるのである。日蓮聖人はまた「親は十人の子を養えども、子は一人の母を養うことなし」と示されている。親に孝養を尽くすことは私たちの基本的な道だと思う。