12月の法話 精進/倉橋観隆

 先日、ロンドンオリンピック、女子柔道で銀メダルを獲得した杉本美香選手に会いました。


 実は杉本選手は私の友人の娘さんで小さい頃からよく知っていました。
 

 小学校五年生の時に近くの柔道教室で初めて柔道を見た時、体に電気が走ったそうです。

「これは楽しそう」ところが父親は「女の子が柔道なんて」と反対していました。

ですが彼女は懇願して教室に通い出し、練習は一日も休まず続けたそうです。その内徐々に頭角を現して行きました。
 

 彼女の話を聞いて、二つの言葉が強く心に残りました。
 

 一つは調子が悪い時は試合中あれこれ考える。そんな時は負けてしまう。無心になって相手の動きに反応していくと自ずと技が出て来

る、というのです。

その為には「技が体に完全にしみ込むまで何百回、何千回でも練習を繰り返す」ということです。
 

 二つ目は、練習で楽なメニューと苦しいメニューがあったら苦しい方を選ぶ。なぜなら後悔したくないから。

「あの時もっと練習しておけばよかった」「そんな思いをするなら今苦しい方を選ぼう。それが上達の近道」と常に自分に言い聞かせるそう

です。そして、その彼女を支える座右の銘は「精進」だそうです。
 

 私はこの話を聞いて、いつもお勤めの時に唱える「此経難持」いわゆる『宝塔偈』の一節「是則精進(是れ則ち精進なり)」

を思い出しました。
 

 『宝塔偈』をお勤めの最後に唱えるのは「今お唱えした法華経、お題目の心を今日一日忘れずにたもち続けます」と仏様に誓っているの

です。その『宝塔偈』の中で最も重要な教えは「精進の心」なのです。
 

 杉本選手の言葉を借りれば「しみ込むまで」。すなわち、口にも体にも心にもしみ込むまでお題目を唱え続ける日々を送る。そして壁に

ぶつかったらあえて苦しい方を選ぶ。

その心を忘れずたもち続ける姿こそが『宝塔偈』が教える精進ではないかと思います。