12月の法話 蕎麦(ソバ)がいい/詠裡庵

今年も残すところわずかとなると、年越し蕎麦を思い浮かべます。除夜の鐘を遠くに聞きながら、暖かいこたつに入ってつるつるとすする蕎麦の味。

何ともいいようのない、日本の原風景が、蕎麦とともにあるように感じます。

一年をふり返り、来たるべき新年に向けての思いを新たにしながら過ごす大晦日。ただ、お寺の大晦日はそうのんびり過ごすこともできませんが、年越し蕎麦は新年を迎えるための大事な一コマとして、頭に浮かぶ人も多いことでしょう。

私の郷里は蕎麦どころです。子供の頃は、さほど食べたいとも思わなかったのですが、近頃では実家に帰ると美味しい出雲蕎麦を食べさせてくれるお店を探して入ります。蕎麦の材料はソバの実です。お米が採れないようなやせた土地で育つので「蕎麦の自慢はお里が知れる」などという諺があるそうです。

でも、香ばしく、つるつるとして喉ごしが良いことに加え、蕎麦のタンパク質はアミノ酸スコア九十二%とされ、必須アミノ酸を豊富に含んでいて、穀物として優秀な栄養価をもっている素晴らしい食品です。蕎麦はだれにも好まれて、来客時のご馳走の一品として作ってもてなしていたという人もいます。

お米と同じ穀物ですが、やせた土地でも育ち、栄養価も高いというスーパーマンのような蕎麦は、それ故にか、北海道から九州まで日本全国で育てられ、食べられているのです。ただ、アレルギー物質を含んでおり、人によっては食べられない人もあるというのは、残念なことです。

古くは晦日蕎麦(みそかそば)といい、月末に一月を無事終えたことを祝って蕎麦を食べました。これに対して月の初めの朔日(ついたち)には、赤飯を食べて新しい月を祝いました。

一年の末の大晦日に食べる年越し蕎麦。美味しくて栄養価もあり、身体も温まります。まさに心も体も癒してくれる、仏さまのおソバにいるような気にさせてくれますね。