3月の法話 サクラサク/末田真啓
「暑さ寒さも彼岸まで」の諺のように、厳しい冬の寒さから抜け出して、ようやく陽射しにも春を感じられるようになってくると、国民的行事とも云えるお花見を楽しみに待っている方も多いことでしょう。
民間の気象会社から発表された情報によると、今年の近畿地方の桜の開花予想日は、例年の三月三十日よりすこし早くなる見込みだそうです。
満開の桜は、老若男女を問わず、多くの人々を幸せな気分にしてくれます。なかでも、一日も早く桜が咲くのを祈るような気持ちで待っているのが、受験生とその家族でしょう。
入学試験の合否通知は、かつてほとんどが郵便を利用されていましたが、最も速く簡潔にしかも安価に、試験の結果を知らせることができたのは電報でした。有名な「サクラサク」の短い文章で合格を知らせることはS31年にW大学から始まったといわれています。以後、本人に代わって試験結果を確認した上で、合否を連絡するいわば電報代行業は、大学の運動部やサークルの活動の資金を稼ぐ学生の手近なアルバイトとなりました。合格発表の当日に会場に来ることのできない地方の受験生にとって、まさに頼りになるのは「近くの親戚より遠くの他人」というところでしょうか。
試験当日の緊張した空気とは裏腹に、にわか仕立ての電報屋の「合格電報はいかがですか!」「ウナ電(至急電報)○○円!」「日本一速い合格電報!」と、いった元気のいい勧誘の声が騒がしいぐらい、まるで文化祭に模擬店でも出しているような賑わいでした。試験直前のワラをもつかむ心境の受験生は「合格電報」の響きに引き寄せられるように、にわか電報屋は繁盛していました。果たして、試験の結果は悲喜こもごも、すべての受験生に「サクラサク」の合格電報を送ることができなかったことは言うまでもありません。「サクラサク」の幸福な電報が、今も日本中を駆け巡っているといいのですが…。