4月の法話 鬼子母神さまの親心/日 慧


 法華経の守護神とされる鬼子母神。子供を護って下さる神様として広く知られている。

 その身は鬼神で、恐ろしげな鬼の形相で表される。また逆に美しく優しい姿をして、赤子を胸に抱いている姿でも表され「愛子母」とも呼ばれている。まったく正反対の異なるお姿であるが、それにはこんなエピソードがある。

 その昔インドでのお話しだ。鬼子母は人間の子供をさらっては食べていたという。これを悲しんだ町の人たちの願いによって、仏は彼女の末の子(愛児)を隠してしまった。

 鬼子母は愛する我が子を捜し回ったがどうしても見つけることができない。そしてついに仏のもとに行き我が子の行方を尋ねた。

 仏は「お前は千人もの子があるのに、たった一人の子を失っただけでそんなに悲しんでいる。わずか四・五人しかいない子をとられた親の気持ちがどれほどのものか分かるか」と諭された。これによって、鬼子母はその罪を悟り、二度と人の子をさらわないと誓ったので、仏は愛児を返した。

 このとき鬼子母は仏の弟子となり、かくして邪神が善神となり、鬼子母神として人々に崇められるようになった。インドでは古くから子授け、安産、子育ての神様として信仰されるようになったという。

 また法華経には、鬼子母神は子供だけではなく、法華経を信じ行ずる者が危難に遭えば、これを助けて下さるという、誠に心強い守護神とされている。なぜそう説かれているのかというと、鬼子母神が子供に注ぐ慈愛の心、すなわち親が子供に対する心というものは誠に広く深いもので、これは仏が一切衆生へ注ぐ大慈悲心に通じるものであるというのである。仏は私たちを「吾が子」として慈しみ導いて下さるのであり、その仏の心をもって鬼子母神も私たちを守護して下さる故のことである。

 この様な仏の慈悲の心をみんなが持ち、互いに支え助け合う、平和な世が実現することを心から願う。