7月の法話 水の祈り/桑木信弘


 一年も半年を過ぎ、蒸し暑い季節となりました。境内掃除の休憩時など、顔や手足を冷たい水で流し、水分補給をすると、ちょっとした幸せを感じます。

 そんな中、最近水の『ありがたさ』を感じ直す出来事がありました。

 私の自坊は棚田百選にも選ばれた、棚田のとてもきれいな地域にあり、その近くに『竜王山』という山があります。そこに檀家さん数名に案内されて登ったときのことです。

 その山頂にはそびえる様に大きく切り立った岩があり、そこに八大龍王がお祀りされておりました。

 八大龍王は、お釈迦様がお生まれになられた時には歓喜祝福の雨を降らし、法華経が説かれる時には、水中の主として無数の眷属と共に教えに耳を傾ける護法の善神です。

 こんな山奥に、いつから誰がお祀りする様になったのかはよく分かっていませんが、昔からこの地域は雨乞いの祈祷がよく行われており、自坊には江戸時代の雨乞い祈祷の際の板札が今も残されています。

 先人達は山を切り開き田畑を広げ、苦労を重ねて棚田を築いてきました。水田に水を引くが故に水を敬いそのため龍神様を大切にお祀りして来たのです。案内をして下さった檀家さんは農業をしており、年始めから年数回、山頂の八大龍王をお詣りするそうです。

 不便な山の上にもかかわらず、暑いときも寒いときも、毎年きちんとお詣りされている檀家さんの背中に改めて水の大切さと信仰の尊さを感じました。

 雨という天の恵みは法華経においては仏様の慈悲に例えられております。様々な草木全てに平等に雨が降り注ぎ、花を咲かせ実りがあるように、仏様は衆生それぞれを安穏ならしめようと平等に慈悲を注がれているのです。

 その慈悲の恵みを頂戴するのがお題目の祈りです。

 時には厳しい風雨もありますが、信仰の根をはり、慈雨を受けて日々お題目をお唱えし、私達それぞれの花を咲かせましょう。