9月の法話 御会式(おえしき)/植田観肇
私が東京にいた頃、自称江戸っ子の友人が目を輝かせて「もうすぐ御会式、楽しみだね」と一言。
秋になると血が騒ぐのだという。
日蓮宗徒でもなく、普段話していても宗教に関心があるようには見えない。何故こんなにはしゃいでいるのかどうも判らなかった。
気になったので詳しく聞いてみると、池上本門寺の御会式の事を言っているようだと解かった。
本門寺の御会式は非常に賑やかで、火消し衆が威勢良く纏をまわし、その後ろでは団扇太鼓や笛の音と共に、きらきらと輝く万灯や提灯の大行列が町を練り歩くという盛大な祭りだ。
「ところで御会式って何の祭りか知ってる?」と改めて聞くと、案の定知らないとのこと。祭りは大好きだけど、その内容には興味がないらしい。
ご存じの方も多いと思うが御会式とは日蓮聖人のご入滅を偲び行う遠忌法要つまり一般の法事のことだ。
日蓮聖人が亡くなられた池上本門寺で行われる御会式は特に盛大で、ご命日の十月十三日の前夜には、全国各地の檀信徒が大勢参拝するため大変な賑わいをみせる。
当初は団扇太鼓を打ちながらお詣りする簡素なものだったが、段々と賑やかになって江戸時代には当地最大の宗教的祭りといわれるまでになった。本来、宗派を問わず法会の儀式を「会式」というのだが「御会式」といえば真っ先に日蓮聖人の命日を指すことが多く、俳句でも秋の季語となっている。
当山の御会式はそこまで賑やかな祭りの雰囲気は無いが、荘厳な雰囲気の中で感謝の法要を行う。その感謝の気持ちは回り回ってまた私たちへ、大きな功徳となって必ず返ってくる。まだ少し先の行事だが、今から心の準備をして是非ご参詣頂ければと願う。
後日、御会式の意味を理解した友人は、ごった返す祭りの間を縫ってご本尊にお題目を唱えてきた、と恥ずかしげに語った。それは祭りを堪能しただけでなく人生の大きな宝を得たことに他ならない。