9月の法話 バジル/新實 信導

昨年の夏のことである。

種から植えたバジルがたくさんの芽を出し、葉も大きくなってきた。

もうそろそろ収穫時期かなと思い、庭のバジルを見にいってみると、無惨な状態になっていた。

新芽には蜘蛛の巣のように芋虫が棲み着き、葉はバッタにより穴だらけであった。急いで殺虫剤を噴霧し除虫しても全く効果はなし、日々穴だらけの葉を見守るしかしかなかった。

それでも、バジルは少ない葉でも秋には開花し種子を付けることができた。

 

ところでバジルとは、シソ科メボウキ属の多年草でインドや熱帯アジア原産のハーブである。

英語ではバジル(basil)、イタリア語ではバジリコ(basilico)としても知られ、イタリア料理には欠かせない食材である。私が蒔いたバジルの種はインド産であった。

今考えればインドの気候にあった種が日本でうまく成長する訳がないのである。

ところが今年の夏、庭の隅にけなげに芽をだしたバジルを目撃した。

今では一本のバジルとして大きく成長しており、多少小さな穴が開いているが、芋虫やバッタにやられることなく凜として立っている。

作物は種子を通して自身の育ってきた環境に適応するための情報を子孫に伝えるといわれている。

しかし現在の農業は農薬や化学肥料の使用を前提に育成された品種を使用するのが主流となっている。よって、本来単独で成長し、たくさんの植物や昆虫などの生き物に囲まれて成長する術を阻害しているように思う。

 

日蓮大聖人は、

「食物に三つの効用がある。一には生命力を養い、二には色艶(いろつや)を増し、三には体力をつける。そして他人に物を施せば、それが自分の利徳として返ってくる」(『食物三徳御書』)教示されている。

私たちは食物を戴いて生命をながらえている。

その感謝すべき食物がどのようにして成長してきたのか、本来の植物のあり方を知ることも大切だ。

この夏、キュウリとトマトの種子をとった。来年の成長を願って…。