1月の法話 ダウンサイジング/末田 真啓

 冬の代表的な味覚の牡蠣(かき)は、さまざまな料理に使われ専門店もある人気の食材です。

 牡蠣は全国各地で養殖され、殊に三陸沿岸の牡蠣は広島とならんでブランドとなっていましたが、五年前の東日本の震災と津波によって沿岸の漁業は壊滅的な被害を受け、ようやく牡蠣漁が再開されたのは最近のことでした。

 そんな中、南三陸のT漁港では、牡蠣漁の再開に当たって、生産者間の話し合いで従来のような過密なやり方は改めて、生産量を例年の三分の一に減らすことになりました。

 牡蠣は、カキ棚に稚貝をつるして海のプランクトンを餌にして成育するまでに通常で三年はかかるといわれています。ところが、一年目に海からカキ棚を引き揚げてみると、予想もしないことが起こっていたのです。すでに牡蠣が三年物の大きさになっていました。しかも、よく太った「雑味のないきれいな味」に成長していたのです。三分の一の生産量にしたことによって、牡蠣の排泄物が減少して海水の栄養分を十分に吸収していたと考えられています。

 サイズダウンという消極的な選択で、勇気の要る決断だったと思いますが、実際には規模を小さくすることで作業量が減り、労働時間が短くなって、大切な家族との時間も今迄よりもてるようになっています。収穫量は少なくなりましたが材料費がその分かからなくなり、コストが下がって収益性は上がりました。人にも自然にも優しい持続可能な漁業という未来も見えてきたのです。更に、日本で初めて国際基準の養殖版海のエコラベル「ASC」に認証されるという大金星まで得ました。

 いつでも縮小が良いとは限りませんが、どんなことでも度を越えるとかえって良くない結果となるものです。仏教では極端によりすぎない「中道」が大切だと説きますが、自分達の中道がどこにあるのか、新年に当たって改めて考えるのもいいかもしれませんね。