12月の法話 苦と楽/新實 信導

今年も残り一ヶ月となった。今年は新型コロナウイルスの流行によって、世界中が混乱させられた。

日本では、4月に新型コロナウイルス対策で「緊急事態宣言」が発令され、5月末まで自粛生活が続いた。

これ以後、感染拡大防止のためマスク装着が推奨され、手指の消毒や室内のこまめの換気を行い日々感染予防に努め、今までにない生活となった。

振り返れば、平成二十一年に新型インフルエンザが流行したが、治療方法は季節性のインフルエンザと同様なので、あまり問題とならかったが、当時、小学生の息子が新型インフルエンザに罹った。

家中で感染防止対策を行い、息子は一室に隔離。食事やトイレに行くたびに、ドアノブなどの手の触れたところには消毒を施し、一週間がすぎた。息子の熱も下がり回復した。お陰で家族が感染することなく、事なきを得た。

私たちは、古来から幸福を求めるため、様々な努力や工夫を重ねてきた。物質文明を誇る西洋文化は環境や物質といった物事を科学的な技術面から改革し、人間の幸福に寄与してきた。

よってウイルスに対してもワクチンや治療薬を開発し克服してきたのである。

これに対して、精神の向上を重視し目指す東洋文化は、人間をとりまく改革よりも、人間の内部を変えることによって生きがいと喜びを達成すべく努力してきた。

それこそが仏教であり仏教では私たちをとりまくものを変えるのではなく、自分自身を変えることで、悲しみや苦しみを取り除こうとしてきた。つまり、相手を変えるのでなく、自分が変わることによって、私たちをとりまくすべてのものに対して受け取り方を変えるのである。

同じことを苦と受け取るのが凡夫という悩めるものであり、楽と受けとめるのが仏という悟ったものなのである。

どんなことがあっても今こうして生きていることを仏に感謝し、自己を向上させることにより、苦が楽となるよう仏の世界を目指して生きていきたい。