9月の法話 糠漬けの妙味/服部憲厚

 糠漬(ぬかづ)けを始めて三年になる。きっかけは、昔食べた祖母の味。また食べたいと思い立った三年前の春、糠床作りからはじめてみた。

 以来、マイ糠床のかき混ぜは私の日課である。

 日本ではごくあたり前の風景だったが、今やそんな姿が日本の台所から消えつつあるのは寂しい。

 確かに面倒だ。でも、そんな手間を差引いても余りある糠漬けの妙味について改めて紹介したい。

 まずは体調の変化。

 元来お腹の弱い私は、糠漬けを食べるようになってすこぶる胃腸の調子がよくなり、おまけにお肌までツルツルになった気がする。

 次に野菜嫌いの娘も「このキュウリはおいしい!」と好んで食べてくれ、苦慮していた妻をも喜ばせた。

 秘密は糠床の中にある。

 糠床には、乳酸菌をはじめ多種多様な菌類が助け合い共存している。絶妙なコロニーを形成して発酵するので、漬けた野菜の栄養価はぐんと高まり、さらに芳醇な香りと、独特のうま味が楽しめるのだ。

 さて、私たちの生きる世界もどこかこの「糠床」に似ているように思える。

 様々な違いを持つ者たちが、家庭や地域、国や世界という同じ入れ物の中で共存するこの世界である。

 しかし近年、互いの関係性はますます希薄となり、違う意見を持つ者の間で分断や争いが頻発している気がしてならない。

 ある日、糠漬けが酸っぱく感じることがあった。

 原因はかき混ぜを怠り、糠床に棲む菌類のバランスが崩れたためだった。

 糠漬けの妙味は、主流派の乳酸菌だけでは生まれない。たとえ少数派の菌類でも、糠床の中ではなくてはならない働きをしているのである。

 『法華経』という古き教えに「十界互具」がある。

 森羅万象には必ず役割と意味があり、互いに関係し合うからこそこの世界は成り立つと説く教えだ。

 私達は今一度、仏の教えを味わうときではないか。

 古きよき「妙味」には深く豊かな智慧の味がある。