10月の法話 我ら衆生と皆ともに仏道を成ぜん/日慧


 宇宙人が地球を侵略するという話しは、古くから小説や映画などで目にする。

 圧倒的な力の差によって地球に住む私たちは侵略者に蹂躙され、為すすべもなくただ逃げ惑うばかり。しかし、勇気ある人たちの英知と努力によって、遂に宇宙人は地球から撤退する。

 この筋書きは類似する小説では、概ね大同小異の経緯を経てハッピーエンドとなる。ショートショートの大家である星新一さんも同様のお話を書いている。ところが宇宙人の撤退した理由というのが、思いもよらぬものなのである。

 宇宙人がシッポを巻いて逃げ出したのは、水虫のおかげだというのである。

 免疫のない宇宙人たちが全く治療する方法を持たぬ水虫に次々に感染し、あまりのカユサに耐えかねて、ついに地球征服を断念して逃げ帰ったというのだ。

 睡眠をも妨げるそのカユサは、経験した人でないと判らないという。私たちにとって百害あって一利なしと思われてきた水虫菌のおかげで地球が救われたというお話しだが、これは法華経の教理によく合致するものと考えることができる。

 生きとし生けるものはすべて、たとえ水虫菌でさえも、仏からみればこの世に不要の存在というものはないというのが法華経の基盤である。彼があって我がある。他があって今の自分という存在があると説くのが縁起の法。相手が自分に仇為す敵であれ悪人であれ、あるいはたとえ猛毒がある毒蛇であっても、全ては仏のもとに平等に成仏の道を与えられているのである。

 故に法華経では、仏は一切の成仏を願い、誰もがその身そのままに仏になれる(即身成仏)と説かれるのである。

 最近の残酷な出来事を見聞するにつけ、そんな仏の大慈悲の心が世の中から消え去っていくのかと、寂しさと危機感を強くするばかりではあるまいか。

 といって、そんな事件を起こした張本人もまた仏によって救われるべきものであることを、私たちは忘れてはならないのである。