12月の法話 魔女の一撃/箕浦 渓介

それは突然やってきた。私の日課である筋トレ中のことだ。腰が「ピキッ」という音を立て、激痛が走った。ギックリ腰である。

正式名称「急性腰痛症」欧米ではその激しい痛みから「魔女の一撃」と呼ばれているそうだ。発症後すぐは意外と歩ける人が多く、その後48時間ほどで痛みの原因である炎症物質が拡大し、激痛を感じるようになる。

私も動けなくなる程の痛みではなかったので、すぐに病院に行くことは出来た。

先生に「もし明日、どうしても仕事に行くのならいつもより2時間早く起きて下さい。寝起きが一番痛むから」と言われたが、この痛みならなんとか行けるだろうと思っていた。

次の日、当然いつもより2時間早く起きれなかった私であるが、目覚めた瞬間すべてを悟った。

私は今日一日、布団から出ることすら出来ないと。起き上がる事はおろか、寝返りを打つことすら出来ない。体を少しでも動かそうものであれば、強烈な痛みが走った。

少しずつ少しずつ体を動かしていき、2時間後やっとの思いで起き上がる事ができたが、仕事に行くことは不可能であった。とにかく何をしても激痛が襲う。

せき・くしゃみをするたびに悲鳴をあげ、椅子に座るのも痛かった。普段、我々を優しく癒してくれるソファーですら、私に牙をむく。もたれさせてくれすらしない。

座っても、今度は立ち上がることが出来ない拷問器具となった。

動物にとって腰を痛めることは致命的だ。まだ人間なので治療方法もあるが、自然界で動物が腰を痛めると動けなくなり死を迎えることになる。

我々動物にとって腰というのはとても重要な部位なのだ。腰という漢字に「要」の字があることを身を以て体感した。

仏は他の痛みや苦しみを知ることの大切さを説かれる。ただそれを理解するには自分の経験が如何に大切か。私は今回の経験で人がどんなことで苦しみ、悩んでいるのかを、さらに深く考えていかなければいけないと痛切に感じた。